「SES営業はきつい」と言われる理由の多くは、営業担当者の能力ではなく、仕事の仕組みにあります。この記事では、経営者・営業責任者が手を入れられる課題を「属人化」「二重管理」「会議資料づくり」「待機」の4つに絞り、それぞれの原因と直し方、効率化を進める順番を整理します。
SES営業のやること:管理者の目で整理する
SES営業は、案件を出す客先と、案件に入る要員(自社社員・協力会社の要員)の両方を相手にします。仕事を分けると次のようになり、どこか1つが止まると売上が止まります。
| 仕事 | 主な中身 | 止まったときに起きること |
|---|---|---|
| 案件の獲得 | 客先・元請けからの案件情報を集め、要件を確かめる | 提案先がなくなる |
| 要員の把握 | 空き・空き予定・スキル・希望を最新にする | 合う人がいても出せない |
| 提案・面談 | 要員を提案し、面談を調整する | 同じ人の重複提案、機会の取りこぼし |
| 契約・更新 | 条件を決め、更新と単価を見直す | 更新漏れ、単価の据え置き |
| 協力会社との連携 | 協力会社の要員と契約を管理する | 契約期間のずれ、連絡漏れ |
SES営業はなぜきついのか
理由の1つは取引の構造です。公正取引委員会は、ソフトウェア業を「多重下請構造型のサプライチェーン」と位置づけて実態調査を行っています[1]。商流が深いほど、情報が届くまでの時間が延び、条件を決める余地は小さくなります。その中で、客先の都合と要員の希望の両方を短い期限で合わせる仕事になるため、仕組みが弱いと担当者に負担が集中します。
「ダメな営業」と呼ばれる行動の多く、たとえば連絡漏れ、同じ要員の二重提案、更新の確認忘れは、個人の資質よりも「誰でも同じ情報を見られない」ことから起きます。以下の4つの課題は、どれも仕組みで減らせます。
課題1 属人化:案件と要員の状況が担当者の頭の中にある
担当者が休む・辞めると、案件の経緯や要員の希望が分からなくなる状態です。営業責任者が状況を知るには、担当者に聞くしかありません。
直し方
- 案件ごとに「次にやること・期日・待っている相手(客先・要員・社内)」の3つだけは必ず記録する決まりにする。
- 要員ごとに、更新見込みと「誰にいつ確認したか」を残す。
- 営業責任者は全件を見ず、期日超過・次にやることが未設定・長く動いていない案件だけを週1回確認する。
属人化しているかを確かめる3つの質問
担当者に聞かずに、営業責任者が次の3つに答えられるかを試します。答えられない項目が、記録の決まりを作るべき場所です。
- 来月に契約が終わる要員は誰で、それぞれ継続か終了か未定か。
- いま提案中の要員は、どの案件に、どの段階で出ているか。
- 今週受注が決まる予定の案件は何件で、何を待っているか。
課題2 二重管理:同じ情報を何か所にも書く
案件は営業の表、要員は別の台帳、単価は経理の表、というように情報が分かれていると、同じ内容を何度も書き写すことになり、ずれも生まれます。実務で使われている表計算ファイル50件を調べた研究では、計算結果を誤らせる誤りが86%のファイルに見つかりました[2]。書き写す回数が多いほど、誤りが入る機会も増えます。
直し方
- 案件・要員・契約の「正本」を1つに決め、ほかの表は正本から作る。
- 要員と案件を同じ場所で結びつけ、「どの要員を、どの案件に、どの段階で出しているか」を1回の入力で済ませる。
課題3 会議資料づくり:集計に時間を取られる
週次会議のたびに、担当者が数字を集めて資料に貼る運用では、会議の前に時間が消えます。
試算(数字はすべて仮の条件です。御社の数字に置き換えてください)
5名 × 1時間 × 48週 = 年240時間
直し方
- 資料を作らず、全員が同じ画面(同じ正本)を見ながら会議をする。
- 議題の順番を固定する:今週受注予定 → 動いていない案件 → 客先・社内の回答待ち → 空き要員。
- 会議の最後に「誰が・何を・いつまでに」を記録し、次回はそこから確認する。
課題4 待機:空いてから探す
要員が案件に入っていない期間は売上が立ちません。一方で、会社の都合で休ませる場合も、平均賃金の100分の60以上の休業手当が必要だと厚生労働省は説明しています[3]。待機は「売上ゼロ・費用あり」の状態です。
試算(数字はすべて仮の条件です。御社の数字に置き換えてください)
取り逃す売上 = 2名 × 70万円 × 1か月 = 140万円
空く前に提案を始めて空白を半月に縮めれば、取り逃しは70万円に減ります。
直し方
- 要員を「空き・空き予定・稼働中」に分け、契約終了予定日と更新見込みを週1回確認する。
- 更新見込みが「未定」の人は空き予定の候補として扱い、早めに提案を始める。
- 来月の待機見込みを人数と金額で記録し、先月との差を見る。
SES営業の効率化:何から始めるか
4つを同時に直そうとすると、入力の負担だけが増えて定着しません。売上への効き方が直接的な順に、1つずつ始めるのが現実的です。
| 順番(例) | 課題 | 最初の一手 | 測る指標(例) |
|---|---|---|---|
| 1 | 待機 | 空き予定と更新見込みの一覧を作る | 来月の待機見込み(人数・金額) |
| 2 | 二重管理 | 正本を1つに決める | 書き写している表の数 |
| 3 | 属人化 | 次にやること・期日・待ち先を必須にする | 次にやることが未設定の案件数 |
| 4 | 会議資料 | 資料なしで正本を見る会議に切り替える | 資料づくりにかかる時間 |
SES営業の将来性は:いま起きている変化
先を予想する代わりに、すでに起きている変化を2つ挙げます。1つ目は人件費です。連合の2026年春季生活闘争の最終集計では、賃上げ率は5.01%(従業員300人未満の組合は4.69%)でした[4]。単価を見直さなければ、同じ要員の粗利は年々減ります。2つ目は取引のルールです。2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法)では、受託する側から価格協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることが禁止されました[5]。更新のたびに条件を根拠つきで話し合える営業組織ほど、この変化を利益に変えやすくなります。
まとめ
- SES営業のきつさの多くは、誰でも同じ情報を見られない仕組みから生まれます。
- 属人化は「次にやること・期日・待ち先」の記録と、例外だけの週次確認で減らします。
- 二重管理は正本を1つに決め、要員と案件を同じ場所で結びつけて減らします。
- 会議は資料を作らず正本を見て、議題の順番と「誰が・何を・いつまでに」を固定します。
- 待機は空き予定と更新見込みを週1回確認し、人数と金額で追います。
COMPASでできること
COMPASのホームでは、稼働率、来月の待機見込み(人数と金額)、平均単価、直接取引の比率を、止まっている案件や受注の見込みと同じ画面に表示します。チーム状況の画面では、顧客回答待ち・見積確認待ち・役員判断待ち・要員回答待ちなど、待ちの種類ごとに滞っている件数が分かります。「要確認案件」では介入すべき案件を決まったルールで抜き出し、「担当者別」では担当ごとに何で詰まっているかを表示します。受注予測と予算計画(フォーキャスト会議)で着地と予算との差を確かめ、論点・打ち手・次アクションを記録できるため、週次の営業会議で使う材料(要確認案件・担当別の状況・着地)が資料を作らずにそろいます。要員・体制の画面では、空き・空き予定と、要員ごとの提案中の案件と段階を確認できます。
会議とマネジメントの機能を見る → 要員・体制の機能を見る → 営業管理の機能を見る →
出典
- 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」(2022年6月29日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_software.html
- Stephen G. Powell, Kenneth R. Baker, Barry Lawson「Errors in Operational Spreadsheets」Journal of Organizational and End User Computing, 21(3), 2009 https://mba.tuck.dartmouth.edu/spreadsheet/product_pubs_files/Errors.pdf
- 厚生労働省「会社都合で休みをとらされましたが、給料なしは労基法上ありですか?」(確かめよう労働条件 Q&A) https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/chingin/q6.html
- 日本労働組合総連合会「3年連続の5%超え!~2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について~」(2026年7月3日) https://jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2026/yokyu_kaito/kaito/press_no7.pdf
- 公正取引委員会「取適法|公正取引委員会」 https://www.jftc.go.jp/toriteki/index.html