SESでは、要員が客先で働く契約が一定の期間ごとに更新されます。更新の確認が遅れると、次の案件を探す時間がなくなって待機が生まれ、単価を見直す機会も逃します。この記事では、経営者・営業責任者が「契約終了予定」「更新確認」「単価見直し」の時期をどう管理するかを、台帳の項目、月次のチェックリスト、Excel管理の限界の順に整理します。
SES契約は準委任契約ですか:更新管理の前提
SESの契約は、成果物の完成ではなく作業の遂行を約束する「準委任契約」として結ぶのが一般的です。民法では、法律行為でない事務の委託(準委任)に委任の規定を準用すると定めています[1]。準委任では、客先が要員に直接の指揮命令をすることはできません。派遣にあたるか請負(業務委託)にあたるかは、契約の形式ではなく実態で判断されると厚生労働省は説明しています[2]。
つまり更新のたびに、期間・単価だけでなく「作業内容や指示の受け方が契約どおりか」を確かめる機会があります。更新管理は、売上を守る仕事であると同時に、契約の実態を点検する仕事でもあります。
契約更新のタイミング:終了日から逆算する
更新の確認は「終了日の直前」ではなく、契約書で定めた申し出期限から逆算して始めます。申し出期限は契約ごとに異なるため、必ず契約書で確認します。下の表は、社内ルールを決めるときのたたき台です。
| 時期(例) | やること | 担当(例) |
|---|---|---|
| 申し出期限の1か月前 | 客先の担当者・現場リーダーに継続の意向を確認する | 担当営業 |
| 同じ時期 | 要員本人の継続意向と、次に入りたい案件の希望を聞く | 担当営業・要員の上長 |
| 申し出期限の2週間前 | 継続なら単価・期間の条件を固める。終了なら次の提案を始める | 営業責任者が判断 |
| 申し出期限まで | 継続・終了を相手に伝え、記録に残す | 担当営業 |
| 終了日まで | 更新後の契約書・注文書を交わす | 営業事務 |
契約更新管理の台帳に持つ項目
逆算を回すには、要員ごとの契約情報が1か所にそろっている必要があります。最低限、次の項目を持ちます。
- 契約開始日・契約終了予定日と、終了までの残り日数
- 申し出期限(契約書の条項から転記)
- 更新見込み(継続/終了/未定)と、誰にいつ確認したか
- 単価・精算の条件と、前回単価を改定した日
- 商流(直請け・2次など)と、協力会社(BP)の要員なら自社と協力会社の契約の期間
- 要員本人の継続意向
協力会社の要員では、客先との契約と協力会社との契約の2本が動きます。2本の終了日や申し出期限がずれていると、片方だけ更新して片方が切れる、といった事故が起きます。2本を同じ行で見られるようにしておくのが安全です。
更新漏れ・延長確認の漏れが起きる理由
「たぶん継続」が確認済みとして扱われる
現場から「延長になりそう」と聞いた段階で安心し、正式な確認をしないまま期限を過ぎるのが典型です。客先への確認結果が出るまでは「未定」として扱い、未定の件数をゼロにすることを月次の目標にします。
期限を知っているのが担当者だけ
申し出期限を担当営業の手帳や個人のファイルだけで管理していると、休暇や異動のときに確認が止まります。期限は会社の台帳に置き、営業責任者が残り日数の短い順に見られるようにします。
契約が切れたまま作業が続く
更新の合意が口頭のままだと、単価・期間・作業範囲の根拠が書面にない状態で作業が続きます。請求や責任の範囲でもめる原因になるため、終了日までに更新後の書面を交わすことを原則にします。
単価見直しの時期と材料
単価を見直す機会は、実務上ほぼ更新のときに限られます。見直しの材料になるのは、要員のスキル・役割の変化と、人件費の上昇です。連合の2026年春季生活闘争の最終集計では、平均賃金方式の賃上げ率は5.01%、従業員300人未満の組合では4.69%でした[3]。給与が上がって単価が据え置きなら、同じ要員の粗利は減ります。
試算(数字はすべて仮の条件です。御社の数字に置き換えてください)
条件:単価月70万円、要員の人件費(会社負担分を含む)月50万円。人件費が4.69%上がり、単価は据え置き。
改定後の人件費 = 50万円 × 1.0469 = 52.345万円
改定後の粗利 = 70万円 − 52.345万円 = 17.655万円(粗利率 約25.2%)
粗利20万円を保つのに必要な単価 = 72.345万円(約3.4%の値上げ)
交渉の場では、2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法)も前提になります。委託する側が、受託する側からの価格協議の求めに応じず一方的に代金を決めることは禁止されました[4]。自社が対象になるかは資本金・従業員数と取引の内容で決まるため、公正取引委員会の資料で確認します。自社が協力会社に発注する側になる取引でも、同じルールが自社にかかる点に注意が必要です。
月次の契約更新チェックリスト
月初に営業責任者と担当営業が同じ台帳を見て、次の順に確認します。
- 3か月以内に終了予定の契約を、残り日数の短い順に一覧にした
- 各契約の申し出期限を契約書で確かめ、期限が近い順に確認担当を決めた
- 更新見込みが「未定」の契約について、確認する相手と期日を決めた
- 要員本人の継続意向を確かめた
- 単価見直しの対象(役割の変化・前回改定からの期間・人件費の上昇)を選び、交渉方針を決めた
- 協力会社の要員について、客先側と協力会社側の契約期間・申し出期限が合っているか照らし合わせた
- 終了が決まった要員を「空き予定」として扱い、次の提案を始めた
- 先月更新した契約の書面がすべて交わされているか確かめた
- 作業内容や指示の受け方が、契約の内容と合っているか確かめた
更新を断りたいとき・途中で終了したいとき
自社の判断で更新しない場合は、契約書の申し出期限までに伝えるのが基本です。契約期間の途中で終える場合について、民法は委任を各当事者がいつでも解除できるとしつつ、相手方に不利な時期に解除したときは、やむを得ない事由がない限り損害を賠償しなければならないと定めています[1]。実際の扱いは契約書の条項によって変わるため、まず契約書の解除・終了の条項を確認し、判断に迷う場合は専門家に相談します。
Excel管理の限界
少人数のうちはExcelでも回ります。ただし、次の限界は人数が増えるほど効いてきます。
- 知らせてくれない:ファイルは、期限が近づいても自分からは知らせません。開いて並べ替えた人だけが気づきます。
- 正本が分からなくなる:担当者ごとにコピーが増えると、どれが最新か分からなくなります。
- 2本の契約や提案の重なりを表しにくい:1行1契約の表では、協力会社との契約や、同じ要員の掛け持ち提案を同じ行で追いにくくなります。
- 誤りが入りやすい:実務で使われている表計算ファイル50件を調べた研究では、計算結果を誤らせる誤りが86%のファイルに見つかりました[5]。
Excelを続ける場合も、正本を1つに決める、残り日数を計算する列を置く、月初に必ず並べ替えて見る、の3点は最低限決めておきます。
まとめ
- 契約更新の確認は、終了日ではなく契約書の申し出期限から逆算して始めます。
- 台帳には終了予定日・申し出期限・更新見込みと確認相手・単価と前回改定日・商流を持ちます。
- 「たぶん継続」は未定として扱い、未定をゼロにすることを月次の目標にします。
- 単価の見直しは更新のときが機会です。人件費の上昇分を試算し、取適法も踏まえて交渉します。
- Excelで管理する場合は、正本を1つに決め、月初に残り日数順で必ず見ます。
COMPASでできること
COMPASの要員・体制の画面では、要員ごとに契約終了予定日と残り日数、更新見込み(継続・終了・未定)を一覧で表示し、「空き/空き予定/稼働中」で切り替えて見られます。協力会社の要員は、会社名と商流(直請け・2次など)も表示されます。やることの画面では、更新期限が近い案件が根拠つきで通知されます。受注の登録では承認済みの見積を選び、契約の開始日・終了日を記録します。受注した案件の更新提案から更新承認(申請者とは別の人)、更新受注までの段取りも、同じ案件の流れで扱えます。更新の判断や送信は人が行います。
更新の確認漏れを、残り日数で先回りしませんか
この記事の内容は、無料の「契約更新管理表(Excel)」ですぐに試せます。COMPASなら画面で続けて管理できます。
出典
- e-Gov法令検索「民法」(第651条 委任の解除、第656条 準委任) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html
- 日本労働組合総連合会「3年連続の5%超え!~2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について~」(2026年7月3日) https://jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2026/yokyu_kaito/kaito/press_no7.pdf
- 政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!委託取引のルールが大きく変わります」 https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
- Stephen G. Powell, Kenneth R. Baker, Barry Lawson「Errors in Operational Spreadsheets」Journal of Organizational and End User Computing, 21(3), 2009 https://mba.tuck.dartmouth.edu/spreadsheet/product_pubs_files/Errors.pdf